税制改正大綱(先送り事項)

税制改正大綱(先送り事項)税制改正大綱(先送り事項)| 税理士法人 K&K Japan

政府与党が、12月10日に令和4年度税制改正大綱をとりまとめた。今回の大綱においては見送られた案件の中には、重要な事項が含まれているので、そちらも確認しておこう。

【検討事項:金融所得課税の強化】 

基本的な考え方の中で「成長と分配の好循環」を掲げる首相が財源確保策の一つとして意欲を示した金融所得課税の強化も、与党の税制調査会の議論が始まる前に早々に先送りしたのには理由がある。

首相は9月の自民党総裁選でいったんは「金融所得課税の見直し」を公約にした。ところが政権発足前後に日経平均株価は12年ぶりとなる8営業日連続の下落を記録。金融所得課税の見直しが株価下落の一因になったと受け止められ、この時、22年度改正での導入断念を余儀なくされた。 

10月に発足した岸田文雄政権は当初、自民党総裁選で政策の一つとして掲げ「分配政策の目玉」と位置づけてきたが、上記の側面からも22年度改正での踏み込みは避け、大綱では高所得層ほど所得税の負担率が低くなる現状を指摘し「是正」すると書き込んだのみであった。

給与所得などにかかる税金は所得が多いほど税率が上がる累進制だが、株式譲渡益や配当など金融所得への課税は一律で20%。このため所得1億円のラインを境に、金融所得の多い富裕層の所得税負担率が下がっていく「1億円の壁」という問題が指摘されてきた。金融所得課税を見直すなら、中低所得者層などに影響が出ないように、どうするかが課題になる。炭素税をどう課税するかを示すことで賛成、反対の意見が出るからだ。

この方向性のもと、自民党の宮沢洋一税制調査会長は22年以降に検討する意向を示すが、大綱では結論を出す時期について言及しなかった。

問題なのは、将来の社会保障を踏まえた税負担のあり方をどう考えるかだが、岸田政権の姿勢が見えてこないことだ。個別の税目を挙げるのではなく、まず受益と負担のバランスをどうするかを検討する必要がある。新たに設けた全世代型社会保障構築会議を動かして方向性を示すべきというのが大方の意見だ。 

年金課税は少子高齢化が進展し、年金受給者が増大する中で、世代間および世代内の公平性の確保や、老後を保障する公的年金、公的年金を補完する企業年金をはじめとした各種年金制度間のバランス、貯蓄・投資商品に対する課税との関連、給与課税等とのバランスに留意し、拠出・運用・給付を通じて課税のあり方を総合的に検討するとされた。 

また、現行まで金融所得課税に関しては一体化の議論が脈々と論じられてきたが、デリバティブ取引に関わるさらなる一体化は、金融所得課税のあり方を総合的に検討していく中で、意図的な租税回避行為を防止するための方策等に関するこれまでの検討の成果も踏まえ、早期に検討することが必要。 

今回の大綱では「税負担の公平性を確保する観点からあり方について検討する必要がある」と明記した。「高所得者層の所得に占める金融所得などの割合が高いことにより、所得税負担率が低下する状況がみられる」とも分析し、こうした状況を「是正」する必要があると強調した。21年度は「所得階層別の所得税負担率の状況を踏まえ」検討するとの表現だったが一歩踏むのが精一杯のところであった。 

【検討事項:炭素税「脱炭素、骨太な議論避ける」】 

炭素税は、製品やサービスに伴う排出量に応じて企業に課税する仕組みだ。温暖化ガスの排出削減への努力を促すとともに、中長期的には価格競争力の向上につながるが、排出量が多い業界で負担は増える。 

諸外国の動きはすでに活発で、排出量取引を05年に導入した欧州で先行する。スイスやスウェーデンの炭素価格は二酸化炭素(CO2)1トンあたりで1万円を超える。アジアでも韓国やインドネシア、シンガポールで導入の動きが加速している。どの国・地域にも、気候変動対策には産業構造を転換してイノベーションを加速する手法が不可欠との判断があるのが一般的。 

日本では環境省が20年前から炭素税導入を求めてきたが、議論は停滞が続いている。 

50年までのカーボンゼロ目標に向け国内で年8兆円の投資が必要との試算がある。環境省の依頼で研究機関やシンクタンクが試算したところ、炭素税などの税収を再生可能エネルギーや省エネルギー設備導入などに再投資すれば、「排出1トンに約1万円の炭素税をかけても経済成長を阻害しない」との結果が出た。 

税制改正に向けた有識者会議での議論では、環境省に対し鉄鋼業界や中小企業の代表者から「炭素税の議論に絞るのは唐突だ」と意見が噴出。前政権下で脱炭素政策を進めてきた菅氏や小泉進次郎氏、河野太郎氏が閣内を離れたことで、導入への勢いは足元で明らかにしぼんでいるというわけだ。 

最終的な大綱の書きぶりは「産業競争力の強化やイノベーション、投資の促進につながり、成長に資するものとなるかどうかという観点から、専門的・技術的な検討を進める」だ。カーボンニュートラル実現に向けたポリシーミックスは、経済情勢や代替手段の有無、国際的な動向やわが国の事情、産業の国際競争力への影響等を踏まえ、国益の観点から、主体的かつ戦略的に検討するものである。 

「カーボンプライシング」や「炭素税」といった具体的な記述は見送られた。

言い換えて、自動車関係諸税は「2050年カーボンニュートラル」目標実現に積極的に貢献するものとするとともに、技術革新の必要性や保有から利用への変化、モビリティーの多様化を受けた利用者の広がり等の環境変化の動向、インフラの維持管理や機能強化の必要性等を踏まえつつ、国・地方の財源の安定的確保を前提に受益と負担の関係も含め課税のあり方を中長期的な視点で検討するとされた。 

脱炭素の実現をめざし、米欧などは風力や太陽光への投資を税制などで支援する動きが進む。しかし岸田政権下で初の税制改正大綱は温暖化ガスの排出削減につながる税のあり方について方向性を示せてはいない。 

繰返すが、温暖化ガスの排出量に応じて課税する炭素税を含めた「カーボンプライシング(炭素の価格付け)」という文言は大綱に入らなかった。脱炭素へのポリシーミックス(政策の組み合わせ)について「主体的かつ戦略的に検討する」と曖昧に記すに留まった。 

炭素税に前向きな環境省と経済界の慎重論に配慮して検討に後ろ向きな経済産業省が水面下でさや当てを続けた結果である。政権として脱炭素にどう臨むのかという理念は見当たらない。

 

世界が直面しているのは格差や脱炭素への対応だ。日本としてどうするか、という観点で真剣に話し合うべきだったといえる。金融所得課税の強化や炭素税に関して、実施の是非を判断するには具体論に落とし込んでいかなければ国民や企業もイメージがわかない。議論すらしないければ疑心暗鬼が広がるだけというわけだ。 

【検討事項:膨張予算、財源論棚上げ】 

新型コロナウイルス禍対策では米欧も巨額の財政支出を打ち出したが、大型の財政支出は財源と一体で示すのが先進国の潮流。米国は生活支援などの財源として富裕層への課税などを検討している。英国は法人税や配当課税を引き上げる方針だ。少子高齢化や人口減少時代の社会保障を支えるための税収基盤の構築といった課題に直面する日本にとっても本来は財源論が欠かせない。 

大綱は「経済あっての財政との考えの下、財政健全化に向けて引き続き改革を続ける」「経済成長を阻害しない安定的な税収基盤を確保する」などと記載したが、具体的な道筋は示していない。

社会保障踏まえた負担のあり方、方向性を持たせることが急務であるにもかかわらず、 中長期の税の在り方がまったく見えてこない。政府の税制調査会が中長期の税の在り方について議論をしていないことも問題といえる。

法人税の引き下げと消費税の引き上げをセットで進めてきた流れが世界的に転換するなか、新しい税体系をどう考えるのか。高齢化が進むなかで医療や介護などのコストを誰が負担するのか。

 

賃上げ税制は2013年から導入して効果がなかったものを多少変えたところで劇的には変わらない。賃上げに対応できるのは大企業だけで、赤字の多い中小企業との格差が開く皮肉な結果になるだろう。労働市場の改革をしないと持続的な賃上げは無理なのに、この10年ほど政治が議論から逃げている。 

詰まるところ、2022年度税制改正大綱は次の年度以降に検討を先送りした改革と重要項目が目立つ。 

世界が直面しているのは格差や脱炭素への対応だ。日本としてどうするか、という観点で真剣に話し合うべきだった。金融所得課税の強化や炭素税に関して、実施の是非を判断するには具体論に落とし込んでいかなければ国民や企業もイメージがわかない。議論すらしないと疑心暗鬼が広がるだけだ。 

 

自動車関連の税制は「中長期的な視点に立って検討」と明記し、21年度の大綱の表現を踏襲した。車検時の自動車重量税に適用するエコカー減税は23年4月末に期限を迎える。次の税制改正で主要な論点になる見通しだ。 

帳簿等の税務関係書類の電子化を推進し、納税者による記帳が適切に行われる環境の整備が、経営力の強化や生産性向上にも重要。納税者側の対応可能性や事務負担、コストも考慮しつつデジタル社会にふさわしいあり方・工程等について早急に検討し結論を得ねばならない。

結局は、新型コロナウイルス対策で膨らんだ歳出を賄うための財源確保策の議論は深まらなかった。将来の消費増税などの長期的な歳入改革のあり方についても言及は避けた。 

新型コロナの影響が長引いているうえに22年夏までには参院選がある。企業や家計の負担増を印象付ける具体的な議論はしにくいのが実情だというのが目下の推測だ。 

日本は、世界的に見ても成長性に乏しく、経済的な基盤強化を行うには鎖国的政策の影響が強すぎる嫌いがある。さらに掘り下げれば、中小企業の経営力低下は国際的な競争力を大きく損ねることになるともなれば、常に全方位的にアンテナを張り、創意と工夫で営業利益の確保に立ち向かわなければ未来はない。

月々の貸借対照表及び損益計算書の月次試算表は、会社経営の今後を占う羅針盤である。常に分析を試み続けることが、会計で会社を強くすることに繋がるともなれば、今宵は弊社とともに経営力強化に勤しんでいこうではありませんか。現在の企業経営に疑問を持たれているのであれば、気軽に質問を投げ掛けてください。いつでもお待ちしております。

※なお、税制改正大綱に関しては、日本経済新聞記事を抜粋して整理しています。

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