会社決算時に重要な「役員報酬改定」と「議事録作成」のポイント
目次
Toggle会社の決算を迎える際、見落としてはならない重要な手続きの一つが「役員報酬の改定」です。役員報酬は法人税法上、損金算入の可否に直結するため、税務調査においても重点的に確認される事項です。
今回は、役員報酬の改定に関する基本的な仕組みのうち「定期同額給与」にスポットを当て、その要件、不相当に高額な給与の取扱い、そして証拠資料としての議事録作成の必要性について整理します。
1.役員給与の3類型と改定時の基本
- 法人税法では、役員給与は原則として損金算入が認められません。
- ただし、次の3つの類型に該当する場合には損金算入が認められます。
- 定期同額給与 … 役員報酬の大部分を占める。定期的に同額で支払う給与。
- 事前確定届出給与 … 支給額・時期をあらかじめ税務署へ届け出たボーナス。
- 利益連動給与 … 上場企業等が導入できる業績連動型給与。
- この中で中小企業が日常的に関わるのは「定期同額給与」であり、決算前後に必ず確認・改定すべきポイントです。
2.定期同額給与の要件
- 支給時期の要件
- 定期同額給与は「毎月1回以上」「一定の時期」に「同額」が支給される必要があります。
- 例:毎月25日に役員報酬を支給。
- 金額の要件
- 改定後は原則として1年間、同額を支給し続ける必要があります。
- 途中で増額・減額をすると損金算入が否認されるリスクが高い。
- 改定可能な時期
- 原則として「会計期間開始から3か月以内」に改定することが認められます。
- 例:4月決算会社の場合 → 4月1日から6月30日までに改定。
- 臨時改定事由がある場合
- 役員の地位の変更、経営状況の著しい悪化など、やむを得ない場合に限り、期中でも改定が可能。
3.不相当に高額な役員給与の損金不算入
- 定期同額給与であっても「不相当に高額」と判断される場合は損金算入できません。
- 国税庁の基準によれば、同業他社の支給水準や会社の収益状況からみて著しく高額な場合には、その超過部分が損金不算入となります。
- 具体的な基準例:
- 同業種の役員報酬水準と比較して著しくかけ離れていないか。
- 会社の利益水準に比べ、役員報酬が過大でないか。
- 中小企業の場合、社長の給与を過大に設定すると税務調査で否認される可能性があるため、報酬水準は「同業他社比較」「利益計画との整合性」を意識する必要があります。
4.議事録作成の重要性と証拠資料としての役割
- 役員報酬の改定は「株主総会決議」や「取締役会決議」に基づいて行われる必要があります。
- 税務署から見れば、改定が適法に行われたことを確認する証拠は「議事録」です。
- もし議事録が整備されていないと、改定の正当性が疑われ、損金算入が否認されるリスクが生じます。
- よって、報酬改定時には必ず議事録を作成し、保存しておくことが会社防衛の基本です。
5.議事録作成の手順
- 決議機関の確認
- 株式会社 → 株主総会(定款で取締役会に委任できる場合あり)。
- 合同会社 → 社員総会。
- 決議内容の整理
- 対象役員の氏名
- 改定後の報酬額(月額)
- 支給開始日
- 改定理由(利益計画、経営状況の変化等)
- 書面化
- 株主総会議事録、または取締役会議事録として作成。
- 議長、出席者の署名押印を行い、保存。
- 保存義務
- 会社法上、議事録は本店で10年間保存が必要。
- 税務調査では直近の議事録提示を求められるケースが多い。
6.議事録レイアウト(例:株主総会議事録)
株式会社〇〇〇〇
定時株主総会議事録
1.開催日時 令和○年○月○日 午前10時
2.開催場所 本社会議室
3.出席株主 株主全員出席(議決権数○○個)
4.議長 代表取締役 □□□
議事
第1号議案 役員報酬の改定について
代表取締役□□□の役員報酬を、令和○年○月分より
月額〇〇万円とすることを提案したところ、全会一致で承認可決された。
以上をもって本総会の議事を終了し、本議事録を作成し、
議長及び出席取締役がこれに署名押印する。
令和○年○月○日
株式会社〇〇〇〇
定時株主総会議長 □□□ 印
取締役 △△△ 印
7.まとめ
- 役員報酬は「定期同額給与」として要件を満たさなければ損金算入できません。
- 不相当に高額な給与は否認リスクがあるため、同業他社水準や利益計画との整合性が重要です。
- 報酬改定は必ず株主総会や取締役会で決議し、議事録を作成・保存することが会社防衛につながります。
- 決算時の役員報酬改定は、法人税負担を適正化するための最重要ポイントであり、毎年の見直しと適切な書類整備が不可欠です。
最後に
- 役員報酬の改定は税務リスクを大きく左右するため、毎期の決算前に必ず確認し、適法な手続きを踏むことが求められます。
- 議事録は単なる形式的な書類ではなく、税務調査や会社法上の責任追及に耐え得る「防御資料」であることを意識してください。
- 報酬水準の妥当性は、利益計画や同業他社との比較を通じて客観的に裏付けを取ることが安心につながります。
- 役員報酬は経営者自身の生活設計にも直結するため、税務だけでなく資金繰りや会社の将来像を踏まえた総合的な判断が必要です。
- 顧問税理士や専門家の助言を得ながら、毎年の報酬改定と議事録作成を確実に実施することが、会社経営の安定と信頼性向上につながります。